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【スズキ新型アルトのデザインを検証する】 #LOVECARS

2015.01.19




◾︎スズキから登場した新型アルトのデザインが話題を呼んでいる。いわゆる賛否両論、である。


◾このクルマが登場する以前から、ネットには画像がリークして「新型アルトのデザインがあまりに斜め上過ぎる件」として話題を呼んだ。そのデザインが旧車っぽくてカッコいい云々…。


◾読者の方も新型アルトのデザインについては、賛否両論だろう。ひと目見て、欧州の小型車を彷彿とさせたり、あるいは60−70年代あたりの国産車を思わせるような感覚があったり…という部分に反応するクルマ好きも多い。あるいは単純に、安っぽい、酷い、という意見もあるかもしれない。


◾そんなスズキの新型アルトの試乗会にいって、デザイナーの方に話をうかがった。そうして、今回の新型アルトのデザインに対して話題としている我々全員が、作り手の思うツボにハマっていることを理解した。


◾デザインを担当した内山一史さんから、今回のデザインの狙いを少しうかがった。当然、どうしてこのようなデザインになったのか? ということを聞いた。そうしていろいろ話していると、なるほど狙いが理解できた。


◾内山さんいわく、アルトとして原点回帰して、素直に走りの良さやデザインへのこだわりというものを目指したときに、デザイン的にも初心に立ち返ろうというものがあった、というようなことをおっしゃっていた。


◾アルトのフォルムは基本的にベーシックなハッチバックだが、軽自動車の華奢さがでないよう骨太な感覚を与えた。例えばサイドウインド周りやリアガラス周りには、ガラスを囲むようにキャラクターラインが入るが、これらは面の厚みを表現している。これによってペナペナ感を払拭した。


◾またディテールでは、フロントマスクやリアのハッチ等に、どこか昔のクルマ的な雰囲気が漂っているが、これもあえて狙っているようだ。


◾例えばフロントマスクに関しては、最近のヘッドランプはデザインのためのデザインでボディに食い込むような三次元形状をしている。けれど、そうした手法が反乱した今、あえてヘッドライトはグリル面に対して平行に、シンプルにライトとしておきたいと考えたという。


◾また、グリルの片側にのみ入る3本のスリットも、かつてのスズキのモデルを彷彿とさせるモチーフであることを理解しつつ入れているが同時に、ラジエターが小さいのでここだけ空いていれば事が足りるために、あえての片側3本になった。実は機能をシンプルに表現しただけなのだ。


◾そして上級グレードで色違いとなるリアハッチ。これをツートーンとしたのは社内でも様々な議論があったが、ひと目見て忘れないような要素、としても与えられている。またバンパーにランプを与えたことで、ハッチゲートそのものがツルッとした珍しいものとなったのでそれを強調する意味も。





◾またバンや社用車を考えた時には、ここをコーポーレートカラーに塗ってもらえたら、ユニークなデザインの社用車になりそう、という思いもあった。


◾こうして、まるでかつてのフィアットパンダや、その他のイタリア車フランス車を思わせるような雰囲気が生まれたわけだが、話を聞けばこのデザインはつまり、軽自動車として原点回帰して、シンプルなクルマを作りたいという想いに立ち返ったからこそ、生まれたのだと思える。


◾同時にせっかく原点回帰するならば、これまでの自動車のデザインにおける、他との違いや変化を前提としたデザインのためのデザインの流れとは異なる領域に行こうとしたからこそ、のものである。


◾そんなわけでこの、賛否両論を呼ぶデザインが生まれた。クルマ好きに理解を示す人は多いだろう。しかし一般の方はどう思うか? ここも賛否が分かれるだろう。


◾ただ内山さんはいう。自分としては、新たな狙いやディテールでの演出を楽しんでもらえる人には楽しんでもらえると思っています。特にクルマ好きの方には。一般の方には、そういう部分はわかってもらえなくても、なんか良いなと思ってもらえればよいですね。そこはあえて問わないですし、何も考えずに選んで乗ってもらうのもまた良いと思います。結果的にそうしたアルトが街を走った時に、それを見た人が(クルマ好きだろうがなかろうが)なんか良いなと思っていただければ良いと思います、という趣旨のことをおっしゃっていた。

◾この、自分たちの作品によって社会に何かしらの変化を慎ましく望む素晴らしき哲学に、共感を覚えた。


◾そしてもしかしたら、こうした想いでカタチ造られたクルマだからこそ、そこには賛否があるとはいえ、多くの人を惹きつける力があるのではないだろうか?


◾すると冒頭の話に返っていく。結局我々は、このデザインを見て賛否の両論を出し合うほどにエネルギーを使ったのである。これこそ、作り手の狙い通り、ではないか。ともすれば話題としてスルーされてしまう新型車すらある昨今で、このことは大きい。


◾そう考えると新型アルトのデザインは、デザインという日本車においては世に遅れをとっている分野での話題を喚起した時点で既に、相当に意義のあるものだと僕は思うのだ。


(文・河口まなぶ