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【マツダ新型ロードスターのデザインを読み解く】 #LOVECARS

2014.09.10

■2014年9月14日、マツダはついに4代目となる新型ロードスターを世界中のファンにお披露目した。会場となった千葉県幕張にあるアンフィシアターのステージの上に新型ロードスターが姿を表した時、多くの人が良い意味で期待を裏切られたのではないだろうか?


■ロードスターのデザインについては当然のように登場前から様々に噂があった。現在マツダがブランド全体で推し進めているデザインの流れ「魂動(こどう)」に沿って、既に登場しているCX-5、アテンザ、アクセラ、そしてデミオ(まだプロトではあるが)に共通しているファミリーフェイスが採用されるのではないか、という憶測は当然強くあった。


■ただしロードスターは、他の実用性を重視した乗用車とは違って、純粋なライトウェイト・オープンスポーツカーである。このため、魂動デザインには沿わずに独自のデザインを展開する…という予測もあった。事実3代目となるNCが登場した際、そのデザインは当時のマツダの他車種との共通性はなく、むしろ初代モデルNAに様々なモチーフを求めることができるデザインだった。


■そうした様々な想いが渦巻く中で姿を表した新型ロードスター「ND」は、魂動デザインを見事に昇華した最新のマツダのデザインが展開されていた。加えてそこには、まさにデザインの力、といえる革新的な手法がそこかしこに用いられていた。



<写真はクリックで大きな画像になります>


■では早速、実際のデザイン写真を見ながら語っていこう。その前にまず驚きはNDの3サイズ。全長3915mm×全幅1730mm×全高1235mmとなること。全幅こそ1700mmを超えるが、全長はNAの3970mmと比べても55mm短く、全高は同じ。さらにホイールベースも2315mmと先代よりも15mm短くなっている。


■しかし実際に写真を見ると、むしろボディサイズはNCと同等くらいに思えるほどの迫力が生まれている。これだけで既にダイナミックなデザインが実現されていることが証明されている。


■そして実に巧みなデザインだと思わされるのが、魂動デザインの特徴がほぼ全てここに埋め込まれていることだ。まずNDロードスターはその顔つきが、他のモデルとの共通性を持ったいわゆるファミリーフェイスではないように思える。しかし良く見ると名残がしっかりとある。他のモデルではグリルの中を走るシグネチャーウイングが特徴だが、ロードスターのグリルの中にそれはない。しかしヘッドライトの内側に与えられた小さなLEDが、その代わりを果たしているのが分かる。加えてグリル左右のエアインテークは、まさに他のモデルと共通するモチーフだ。



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■そしてボディをサイドから見ると、これも紛れもない魂動デザインの流れに沿ったものだと分かる。NDロードスターをサイドから見ても、そこに他のモデルにあるようなキャラクターラインは一切用いられていないことが分かる。しかし実はフォルムそのものが、他のモデルのキャラクターラインと同じような動きを表しているのである。上の写真を見た後に、アテンザのキャラクターライン解説の絵を見比べてほしい。まさにこの線こそが、フォルムそのものとして展開されていることが分かるはずだ。



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■このラインはCX-5、アテンザ、アクセラ、デミオとモデル毎の少しづつ異なるが、基本の流れは変わらない。それをこのNDロードスターではフォルムそのもので表現した、ということだ。ノーズの先端からラインが持ち上がってキレイなフェンダーを形作った後、ドアで一端下がってリアで再び力強いフェンダーを形成する。魂動デザインをフォルムそのものに用いたことで、歴代で最短の全長ながらダイナミックかつ艶っぽいスポーツカーのフォルムを生み出したわけだ。



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■さらにNDロードスターは、革新的な手法に満ちた1台といえる。まず最近のクルマとしては異例ともいえるくらいに「目が小さい」。つまりヘッドライトが小さい。そしてこのヘッドライトを極力下方へ配置している。これによって正面から見た時にかなり低くワイドに感じさせる効果を発揮している。現代の歩行者保護等を考えるとボンネット高はある程度確保する必要がある。にも関わらずNDロードスターが低く見えるのは、このヘッドライトによるところが大きい。またデザインのトレンドである派手なLEDも極力排している点も新たな部分。実際にはグリル横のインテーク形状の部分に縦にLEDがヒゲのように配されるが、それでも最近のモデルとしてはLEDが少ない方といえるだろう。


■また革新的なのは魂動デザインをフォルムそのもので表現した上に、ドライバーズシートからフロントウインド越しに見える景色の中に、筋肉のように盛り上がるフロントフェンダーの存在感をキッチリと盛り込んだことだろう。サイドからのフォルムでマツダ・デザインを表現すると同時に、ボンネット側に回り込むような造形としている。そしてこれは、これまでの他のモデルではなかなか作り上げることのできなかった表現でもある。他のモデルはフェンダーよりもボンネットが高い位置にあるために、どうしてもキャラクターラインでしかフェンダーが表現できなかった。それを今回のロードスターではフェンダーよりも低い位置にボンネットをおけたために、スポーツカーらしいフェンダーを作り上げることができた。これはNDロードスターだからこその新たなデザイン手法ともいえる。つまり従来の流れを上手く取り込みつつ、新たな造形にチャレンジしている。



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■さらにNDロードスターで最大の革新は、”タイヤサイズに頼らないスポーツカーフォルム”を完成させたことだろう。既にご存知の方も多いだろうが、このモデルが装着する横浜のアドバンスポーツV105は16インチサイズである。これまで発表時には大きな径のタイヤ&ホイールを履くのが常だったが、そうした常識をも覆している。そして何より常識を覆したのは、16インチサイズでもカッコいい、ということに尽きるだろう。これが実現したことも、魂動デザインをフォルムそのもので表現しているからに他ならない。先にフェンダーの話をしたが、ボンネットをフェンダーの頂点よりも低い位置におけたこと、リアもフェンダーそのものがフォルムとなっているからこそ、タイヤが16インチでも小さく見えないのだ。またこれは同時にアフォーダブルなスポーツカーであるロードスターに相応しいサイズ選択にもなっており、好印象を与える要素にもなっている。



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■こうして見て来ると、NDロードスターのデザインは実に考え抜かれたデザインであると分かる。これまでの流れである魂動デザインをしっかりと使って骨格を形成しながらも、ディテールでは革新的な表現を盛り込むことで新たな時代に相応しいロードスターのデザインを提示した。そう考えるとNDロードスターとは、間違いなく現在のマツダ・デザインを強く表現する1台でありながらも、実際以上に低く見せてタイヤを小さく見せない、スポーツカーとしての常識を覆すデザインを持った1台でもある。


■そして何より、重要なのはそうした新たな要素に満ち溢れたデザインでありながらも、なぜかそれがマツダ・ロードスターだと一瞬で認識できる、このクルマの醸し出すとても幸せな雰囲気そのものである。(文・河口まなぶ)